近年、注目を集めている「配位空間化合物」は、その合成過程において巨大な配位高分子が形成されるため、溶解度が急激に下がって微粉末として生成することが多く、大きな単結晶を得にくいという難点がある。大きな比表面積を生かした気体吸蔵などの目的に対しては微粉末形状で充分な場合が多いが、光学特性を利用するような用途に対しては、透明で大きな単結晶が不可欠である。本研究では、ゲル結晶化法の配位空間化合物への応用範囲を広げるために、非水ゲルを用いた結晶育成を目的とし、非プロトン性溶媒を含むより多くの種類の有機溶媒系への拡張をめざして、各種の低分子ゲル化剤を利用し結晶成長条件を検討した。12-hydroxyoctadecanoic acidをゲル化剤として、各種溶媒のゲル化を試み、塩素系溶媒およびtolueneで良好な結果を得た。結晶成長の対象試料として(NBu_4)[MnCr(ox)_6]を選び、反応を試みたが、この条件では結晶は得られなかった。 平行して進めていた、分子の電子状態の外場制御に関する研究は、混合原子価多核錯体の分子全体にわたって非局在化している電子が高磁場のもとで特定の原子上に局在化する可能性を、主として現象論的な理論である4軌道PKSモデルを用いて検討した。これは原理的には重い電子系のメタ磁性転移と同様のもので、分子性物質において発現してもおかしくない現象であるが、現在までに観測例は報告されていない。二核錯体を例とした計算では、平均原子価状態-局在原子価状態の磁場誘起スイッチングを実験的に検出することはかなり困難であることが明らかとなった。また、PKSモデルによる見積もりでは磁気異方性が過大に評価されるため、共有結合性の効果や低対称モードによるJahn-Teller不安定性を考慮する必要が示唆された。
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