研究概要 |
申請者はこれまで,三級ホスフィン配位子を有するPt(II),Pd(II)錯体結晶が可逆的にSO_2を吸脱着し,結晶内のヨウ化物イオンとSO_2の結合形成による,ワイヤ構造を形成する現象を見いだした。本研究ではこのワイヤ構造の分光学的特性,並びにSO_2圧力依存性を研究すると共に,環状窒素系配位子(cyclam)を有する金属錯体結晶がどのようなSO_2吸着挙動を示すかを明らかにした。[Pt(cyclam)]I_2とSO_2の水溶液中の反応では,濃赤色を呈する化合物結晶が得られた。濃赤色結晶の化合物は,[PtI(cyclam)(SO_2)Iの組成式で表され,X線構造解析による結晶構造の特定を行った結果,Pt(II)錯体には希な六配位八面体型の構造を有することが明らかとなった。さらにこの錯体はPtに配位したSO_2が隣接錯体のヨウ素に架橋配位することで,Pt…I…SO_2…Ptの一次元鎖構造を形成しており,新たな分子ワイヤの形成が確認された。同様の対イオンに臭化物イオンを有する[Pt(cyclam)]Br_2とSO_2の水溶液中での反応では,[Pt(cyclam)][PtBr_2(cyclam](BrSO_2)_4の組成を有する橙色の化合物結晶が得られた。この化合物はPt(II)-Br-Pt(IV)の一次元鎖構造を有する,ハロゲン架橋一次元混合原子価白金錯体である。さらに結晶中に存在するSO_2は陰イオンであるBr^-と相互作用し,(BrSO_2^-)∞のワイヤ構造を形成していることが明らかとなった。X線構造解析により,Br^-とSO_2からなる複合体の構造が決定されたのはこれが初めての例である。この結晶は大気中でSO_2放出挙動を示し,SO_2放出後の結晶は濃紫色へと変化した。この変化はSO_2を利用した白金一次元鎖の電子状態の制御に新たなヒントを与えるものである。
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