本研究では、延伸ポリビニルアルコール(PVA)膜を場としたランタニド配位化合物のエネルギー移動を空間操作により制御することを目的としている。本年度は、光アンテナにフェナントロリンphen、ff発光種にユーロピウムEu (III)を用い、主に電子スペクトル測定を手段として実験を行ってきた。 延伸PVA膜上に形成されたphen-Eu複合体のphenからの帯は、延伸することによりほとんど発光しなくなる。さらに長波長側にEu (III)に由来するいくつかのff発光が現れることから、延伸することによりphenからEu (III)へのエネルギー移動の効率が高くなったことがわかる。また、Eu (III)発光において磁気双極子遷移に帰属される594nm帯(^5D_1-^7F_0遷移)に対する電気双極子遷移614nm帯(^5D_2-^7F_0遷移)の相対強度は、Eu (III)周辺の配位子場の対称性の偏りの目安となる。すなわち、^5D_2-^7F_0遷移の強度比は延伸の場合よりも未延伸の場合に小さい値を示す。このことから、延伸することでEu (III)の配位環境は、未延伸膜上の場合と比較し、より対称性の高い整然とした状態に変化するものと考えられる。すなわち、延伸により配位環境を制御しエネルギー移動の結果もたらされる発光に変化を与えることができた。 今後、発光寿命測定を行ない、エネルギー移動のパスを定量的に議論するとともに、配位化合物の構造に関する知見を得ることを予定している。
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