研究概要 |
本研究ではガス分子内包フラーレンの構造物性研究を放射光X線回折実験により行っている。昨年度は試料合成の制約から,微量のH_2@C_<60>粉末試料を用いた構造解析を試みた。C_<60>は室温付近では自由回転をしており,原子位置を含めた解析は難しいが,250K以下では一軸のラチェット回転型の自由度のみに限定されるため,二つのC_<60>方位に限定する占有率を含めた構造解析を行うことが可能である。精密な格子定数の測定によって,Ar元素が内包されたときに見られた転移温度以下での熱膨張係数の空のC_<60>結晶との差は,水素分子の場合には見られず内包の影響が極めて小さいことがわかった。粉末回折のリートベルト解析+マキシマムエントロピー法による電子密度解析を行った結果,水素が内包されている結晶の場合にのみ水素分子由来の内包された電子密度を観測できた。単なる解析法のトリックではなく,内包の影響が散乱図形に表れていることをシミュレーションによって明らかにした。しかし,この解析の精度では,未だ十分な構造情報を抽出することができていないため,次年度から単結晶解析を行うべく単結晶の成長条件を探索し,純良結晶を得ることに成功した。なお,今年度はイメージングプレート回折計による測定条件,装置定数の確定,統計制度の見直し,精密な単結晶回折図形の画像処理の諸条件などの洗い出しを行った。また,放射光の安定度を上げるためのフィードバック機構の導入なども行った。この結果,今まで以上に解析精度を上げられることに成功したことを付け加える。
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