本研究では、ヘムを活性中心とする気体分子センサータンパク質による選択的な気体分子センシング、ならびにシグナル伝達において、タンパク質配位空間が果たす役割を分子レベルで明らかにすることを目的として研究を行った。本年度の研究においては、枯草菌由来の酸素センサータンパク質であるHemAT、および一酸化炭素を生理的なエフェクターとする転写調節因子CooAを主要な研究対象として研究を行った。 HemATはその休止型においては5配位高スピン型ヘムを有しており、生理的なエフェクターである酸素以外にも、一酸化炭素、一酸化窒素といった2原子気体分子がヘムに結合可能である。しかしながら、共鳴ラマンスペクトルによりヘム近傍構造を詳細に解析した結果、HemAT中のヘムに酸素が結合した場合にのみ、特徴的なヘム近傍のコンフォメーション変化が誘起されることが分かった。このコンフォメーション変化には、ヘム周辺に存在するアミノ酸残基とヘム自身との間で形成される水素結合ネットワークの形成が重要な役割を担っていることを明らかにした。生理的なエフェクターではない、一酸化炭素、一酸化窒素等がヘムに結合した場合には、酸素結合の場合に誘起される水素結合ネットワークの形成が進行しない。このことによって、HemATは酸素とそれ以外の気体分子を区別してセンシングしていることが分かった。 一酸化炭素をエフェクターとするCooAによる一酸化炭素センシングの分子機構を明らかにするため、CooAの結晶構造解析を行った。その結果、CooA中のヘムにイミダゾールが結合したイミダゾール結合型CooAの構造決定に成功し、得られた構造を詳細に検討することにより、CooAによる一酸化炭素センシング機構について考察した。
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