研究概要 |
本年度の研究では、Au(111)単結晶の一次元錯体ワイヤーについて測定した。Au(111)単結晶(8×8mm^2)を配位子クロロホルム溶液とFe(II)溶液に交互浸積することによりフェニレン架橋ビステルピリジン配位子積層膜を作成した。測定は、SPring-8 BLO2B2において大型デバイシェラーカメラに薄膜回折用アタッチメント2を取り付け、波長1.0Å、入射角0.1〜1°の微小角入射配置で行った。80回積層した膜について測定した回折データには、2θ=6.1°にピークが観測された。このピーク位置は20回積層膜でのデータとも一致することから、積層膜に対して再現性を有する。また、未積層の金単結晶表面ではこの回折は見られないことも確認した。この回折から求められる積層膜の周期構造は1.0nmと、配位子の分子モデルから求まる1.4mm程度の分子長より短くなっている。これについて、表面でのデータとの比較のため、溶液中で配位子とFe(BF_4)_2を混合し、数10nmサイズの微結晶塊からなる濃青色沈殿を得た。この粉末からの回折は、2θ=4.5〜5.7°(λ=0.8Å)にブロードなピークを示し、Au(111)面上のワイヤの周期構造とほぼ同じ10〜8nmの周期をもつことが分かった。また、電子線回折を用いた同じ配位子によるFe(II)錯体ポリマーの結晶構造が報告されており、ユニットセルのa,bの長さは隣接間ワイヤの鉄錯体同士の距離に対応する1.0nm程度となっている。これらのことから、錯体ワイヤは表面に対して40°傾くことで、隣接ワイヤとの距離を1nmとなるようにパッキングし、観測された周期を与えると推察された。
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