クォークセクターにおいて、CP位相をもつフレーバー転換項は原理的にハドロンの異常電気双極子能率(EDM)に寄与を与えている。標準模型においては、CKM位相が唯一のCP位相であり、EDMへの寄与が小さいことがわかっている。よって、EDMは標準模型を超える理論に存在する拡張されたフレーバー構造に対して感度を持つことを意味する。我々は、超対称標準模型を仮定し、そこで存在しうるフレーバー数保存およびCP対称性両方を破るスクォークの質量項を起源とするハドロンのEDMの評価を行なった。特に、荷電ヒッグスボゾン交換によって2ループのダイアグラムで生じる寄与に注目した。この寄与は、超対称粒子の1ループで生じる寄与のように超対称粒子の質量を十分重くしても抑制されず、また標準的な超対称粒子がヒッグスボゾンと同程度の質量のときでも1ループに対して遜色ない寄与を与える。このことはハドロンのEDMの探索が、パラメータの広い範囲で超対称模型に存在するスクォークのフレーバー数非保存の質量項に対して感度があることを意味する。 最も単純な超対称標準模型において、ゲージーノのマヨラナ質量やスカラー場の2点および3点結合といった超対称性の敗れに存在するCP位相は、ハドロンおよびレプトンの異常電気双極子能率に寄与を1ループで寄与与え、現象論的に問題があることが知られている。この問題は超対称CP問題と呼ばれている。この問題を最も単純な超対称標準模型において解決するためには、超対称粒子の質量が10TeVにあるか、もしくは何らかの理由にCP位相が小さいことが要請される。我々は超対称標準模型を拡張することでCP位相が自動的に小さくなる可能性を議論した。もし、ゲージーノがディラック質量をもち、マヨラナ質量が十分に小さい場合にはEDMが十分に小さくなることを示した。
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