本研究計画の目的は、素粒子の質量の起源と考えられている電弱対称性の自発的破れ(ヒッグスセクター)を研究することで将来の加速器実験で検証することを通じ、現在の素粒子標準模型を超えた「新しい物理学」(new physics)の方向性を明らかにすることにあった。特に真空の構造を決定するヒッグスポテンシャルを実験的に明らかにするためにはヒッグス場の質量を測るだけでは不十分で、ヒッグス場の自己相互作用を測定する必要がある。我々はヒッグス場の自己相互作用に現れる新物理学の効果をヒッグスセクターを新物理学模型の低エネルギー有効理論と考え、ヒッグス自己結合に対する新物理学の効果を研究した。同様な手法でトップクォークとヒッグス場の結合(湯川結合)が高いスケールの物理理論の効果によって標準模型の値からどのくらいずれるかを現在の実験データと理論的な要請からくる制限を考慮して研究した。さらにヒッグスの結合定数の値に新物理学によるずれがある場合に、LHC実験および線形加速器(ILC)実験で検証することができるかを研究した。たとえば平成18年度の研究は、ILCでの電子陽電子衝突実験で、トップ湯川結合が関与する反応過程を研究し、その生成や崩壞の確率(断面積)を有効理論に基づいて計算し、実際にどれほどの新物理学の効果がトップ湯川結合にあれば、これらのプロセスに関する標準模型の予言からのずれが線形加速器で検証できるかを定量的に明らかにした。その成果は論文として出版した。さらに平成19年度は、同様な手法でLHC実験でのヒッグス生成プロセス(W混合プロセス、グルオン混合プロセス)を研究した。特にグルオン混合によるヒッグス単生成および対生成プロセスを詳しく調べ、対生成過程では、ヒッグス自己結合およびトップ湯川結合が新物理学模型の効果でずれた場合に生成断面積は非常に大きくなり、LHC実験でも十分検出できる可能性があることを見出した。研究成果はすでに今年の3月に国際会議でも発表し、現在論文を出版準備中である。
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