研究概要 |
タンパク質やRNAなどの生体高分子による触媒反応の機構を,その電子状態と立体構造の変化に基づいて詳細に解明するため,本研究では溶媒水分子や金属イオンなども含む大規模でリアルな系の全体に対してQM/MMハイブリッド分子動力学シミユレーション(ハイブリッドMD)を実行し,その反応過程を精密に解明する。本年度は,生命の最も基本的かつ重要な機能のひとつを担うRNA・タンパク質(アミノアシルtRNA合成酵素のひとつロイシルtRNA合成酵素とそれに特異的なRNA)複合体に対して,まず1)低解像度の実験データを理論的に補い,その計算モデル(約170,000原子)を構築し,実験構造に内在する複数の誤りを系全域にわたって修正することにより,精密な複合体構造を理論的に再構築した。その過程では,約100Aほど離れたふたつのサイト間で,実験構造の誤りが伝搬し,立体構造を変えてしまうことが見出された。こうしたアーティファクトは,りった構造の理論的な精密化手法による改善によって,完全に除去された。2)得られた大規模な複合体分子系全体を対象にハイブリッドMD計算を実行し,その生体触媒反応(多段階反応)の初段における電子構造および立体構造の変化を明らかにした。特に,溶媒水分子の1個が反応サイトに接近することによって,基質の電子構造が大きく変化し,反応開始の準備が整うことが明らかになった。3)これに基づきさらに,タンパグ質の活性部位の一部の化学構造に変異を与え,得られた反応機構を実験的に検証するための実験系の設計を理論的に行い,生体分子に対する量子デザイン・スキームの開発を開始した。
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