電子励起状態を介して起こる原子移動と構造変化について構成原子数の少ない孤立系のクラスターを対象として調べ、電子系を時間的、空間的、エネルギー的に制御して励起して原子配列を位置、元素および軌道ごとに選択的にかつ低温で原子操作するための知見を得ることを目的としている。本年度は、化合物半導体クラスターにおいて励起された電子系から格子系へのエネルギー伝達がおこり、非熱的あるいは熱的に原子の凝集形態が変化してゆく過程を原子構造変化から調べ、量子デザインに必要なパラメータとそれによって支配される物理的なメカニズムを以下のように明らかにした。10nm程度のサイズをもつGaSb化合物クラスターにおいては、所定の温度で励起電子のエネルギー低下にともない励起効率は著しく向上し、相転移が誘起される。励起初期から高い効率でナノ粒子内部に大量に導入される原子空孔が高い移動度をもつ温度では、それらは粒子内部で凝集してボイドを形成し、移動度の低い格子間原子は格子定数を増大させる。GaSbにおいては、1次欠陥であるGa原子空孔にSb原子が移動することによってSbGa逆構造欠陥が形成され、Sb原子空孔とGa格子間原子が生成される。相転移はこれら点欠陥の生成と移動度の温度依存性に影響を受け、高温においては対消滅するため相転移は起こらないが、低温においては移動度も低く局所的な原子変位の結果としてアモルファス化する。しかし、中間の温度においては、化合物結晶内部に蓄積された格子間原子による格子歪みによって四面体構造が不安定になり、相分離する。電子励起誘起相転移には、このような点欠陥の導入と移動が重要な役割を果たしていることが明らかにされた。
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