粉末イオウをイオウ源とする有機合成反応の開発は、含イオウ化合物に特徴的でかつ簡便な操作による原子効率の高い系を提供できる重要な課題である。そこで本研究では、三種類の多成分連結反応(1、粉末イオウ、アルデヒド、アミンの三成分連結反応、2、粉末イオウ、アセチレン、アルキル化剤、アミンの四成分連結反応、3、チオアミドと異なる有機金属反応剤の三成分連結反応)を基軸とする実践的局度分子変換反応の達成を目的とした。その結果、3について顕著な成果を得た。 すなわちチオホルムアミドに対して、有機リチウム、Grignard反応剤が連続して付加し、アミンを与える系を確立した。この反応では、チオホルムアミドのアミノ基部分には、ジメチルアミノ基、モルホリル基、さらにピペラジル基を持たせることができた、有機リチウムおよびGrignard反応剤としては、脂肪族、芳香族さらにアルキニル基を有するものなど、さまざまな誘導体を利用することができた。その結果、抗アレルギー剤セチリジンやアルツハイマー治療薬リバスチグミン前駆体を、単段階で高効率で導くことができた。またこの反応で得られる共生成物[LiSMgBr]は硫化剤として利用することができ、酸塩化物との反応は、チオカルボン酸を与えた。 つぎにチオアミドと過剰のGrignard反応剤との反応も行った。この場合、チオアミドのチオカルボニル炭素上の置換基とGrignard反応剤の種類による生成物との傾向を明らかにできた。すなわち、チオホルムアミドに対しては、様々なGrignard反応剤が二当量組込まれる一方、チオアミドのα炭素が一級である場合、芳香族Grignardとの反応は、ケトンを与え、二級である場合には、反応は進行しなかった。さらに芳香族チオアミドは、一旦MeOTfで活性化を行うことで、脂肪族Grignard反応剤二当量を組込むことができた。
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