水を媒体として室温、常圧下、短時間で定量的に進行する反応は、有機反応のひとつの理想的なモデルである。また、反応の後処理や、自動化などを考えると高分子固定化型触媒は強力な技術として注目される。本研究では水系での不斉反応に用いることのできる高分子触媒の開発に取り組み、以下の結果を得た。 (1)水中での反応に用いることのできる高分子構造の最適化を行うために、代表的な親水性高分子の一つとしてスルホン酸塩型高分子に着目した。水中での有機反応に適切な反応場を与えるかどうかを簡単に評価するため、NaBH_4によるケトンの還元反応について検討した。ベンゾフェノンは水中で室温では還元反応がほとんど進行しないが、スルホン酸塩型高分子の存在下、反応が進行することがわかった。Na塩は効果が少ないが、第四級アンモニウム塩を用いると反応速度の上昇が観測された。市販のイオン交換樹脂に比べて本研究で合成した高分子は高い反応性を示した。 (2)スルホン酸塩、リン酸塩、およびカルボン酸塩を有する高分子固定化型不斉触媒を調製し、ケトンの水素移動型不斉還元反応に応用した。カルボン酸は効果が低いが、リン酸の塩を側鎖に有する高分子を用いると水中での水素移動型不斉還元反応が進行するようになり、光学活性アルコールを得ることができた。スルホン酸塩を側鎖に有する高分子も有効であった。特に芳香族スルホン酸塩型を用いると、その効果は著しく、第四級アンモニウム塩では2時間以内に反応は定量的に進行し、非常に高いエナンチオ選択性(98% ee)を与えた。この高分子触媒は架橋構造を持ち反応系からの分離、回収も容易である。繰り返し使用することも可能で、少なくとも5回のリサイクル実験で選択性の低下は見られなかった。
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