多数の蛍光分子種の生細胞・組織内での時空間的動態を定量的に測定できるイメージング手法として、Excitation-Emission Matrix (EEM)イメージングとParallel Factor Analysis (PARAFAC)によるスペクトル分離手法に基づく多重蛍光同時測定システムの開発・構築を試みた。 平成18年度には、従来型の蛍光顕微鏡をべースにして、励起波長と蛍光波長を数種類のバンドパスフィルターで切り換えて高感度ビデオカメラで記録する光学系を構築した。また、多チャンネル分光センサを搭載した共焦点顕微鏡をベースにしたシステムも併せて検討した。これらの測定系で得られたEEM画像について励起光強度やフィルタ透過率についての補正を行った後、昨年度までに開発したPARAFACに基づくスペクトル分離アルゴリズムを画像データ用に改変したものを用いて、各蛍光成分画像の分離を行った。マウス卵細胞に各種蛍光色素や蛍光タンパク質を導入したものを対象にして、上述のシステムで単一細胞レベルでのEEM画像を経時的に記録・解析した結果、いずれの系においても導入した複数の蛍光成分と内因性蛍光成分のそれぞれが正確に分離できることが確認できた。具体的には例えば、IP_3産生酵素であるPLC、細胞内カルシウムイオン、およびミトコンドリアの細胞内動態を、それぞれGFP、カルシウムプローブ、フラビン由来の自家蛍光により、同時に測定することが出来た。また、従来のLinear unmixingによる成分分離法より分離結果が正確であることも確かめられた。各成分スペクトルに関する先見情報が不要な方法なので、特に未知の成分を含む試料に関して有用なシステムであると考えられるが、現時点では分離可能な蛍光成分数が3から4個と少なく、今後更なる改良が必要である。
|