本研究は、生体分子を高感度に蛍光検出するための新規な分子認識システムとして、生体分子の自己組織化による蛍光シグナル増幅システムの創成を目指した。今年度は、まず、銅イオンに応答した蛍光シグナ増幅システムの構築を目的として、銅イオンが存在しないときにはランダムコイルであるが、銅イオンの添加によりβシートを形成することで繊維状構造となるペプチドを探索した。金属配位部位としてHisとGluを有し、蛍光基としてTrpを含む種々のペプチド配列を設計・合成した結果、ペプチドHIEKWEIKIHの場合に、銅イオンが存在しないときにはランダムコイルであるが、銅イオンの添加によりβシート構造が誘起されることがわかった。 また、Wheel型にペプチドFKFECKFEを三回対称性に配置した新規コンジュゲートを合成し、その水中での自己集合挙動を検討した。このコンジュゲートは中性の水中でβシートを形成しているのに対し、酸性もしくは塩基性条件下においてはランダムコイルであることがCDスペクトルからわかった。透過型電子顕微鏡観察から、このコンジュゲートの中性水溶液では、分子の直径に相当する3nmの均一な太さのナノファイバーが形成していることがわかった。それに対して、酸性・塩基性では明確なナノ構造を与えなかった。すなわち、このコンジュゲートも環境に応じてナノ繊維を形成するユニットと見なすことができ、高感度に蛍光検出するための構成分子として有望であることがわかった。
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