フラーレン部分構造分子でもあるバッキーボウルのうち、一部の誘導体において結晶状態で同一方向に垂直にカラム状積層体を形成することが見出されている。この積層体は固体状態において大きな双極子モーメントを有し導電性を示すなど、バッキーボウル独自の新たなπ電子系分子集合体と考えることができる。ドット状にバッキーボウルを吸着し、さらにその垂直方向へ積層できれば、元来有機化合物の得意とする2次元平面上でのナノメートルスケールエンジニアリングに加え、垂直(3次元方向)への定量的なシグナル導出が可能となるため、理想的なナノドット候補化合物となる。Si(100)表面上ではベンゼン環が[4+2]型付加環化反応により吸着することが知られており、バッキーボウルの最も反応性の高い底面ベンゼン環での同様の反応を用いれば、母体の構造を大きく変化させることなく吸着し、さらに垂直方向へお椀型分子を積層することが可能となる。しかしながら、現段階では母体となるバッキーボウルを自在に設計通りに合成できる一般的な経路が確立されていないため、本研究では、まず第1目標として、バッキーボウルの一般的合成法の確立を目指し、続いて合成したバッキーボウル分子を用いたSi(100)面への吸着過程の観察並びにキャラクタリゼーションを行うことを目標とした。その結果、18年度の研究においてはC3v対称のスマネン誘導体の一般的な合成ルートを確立することが出来た。この結果、様々な共役有機鎖状化合物だけではなく、3脚型吸着分子へ展開するための官能基の導入も容易になった。
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