分子膜の電気伝導における弾性・非弾性過程に対する膜厚依存性を究明する前に、分子膜系で重要になるであろうと推察される新たな理論的課題が幾つか見出された。この為、本年度はこれ等の研究を行った。(1)昨年度までは比較的高い振動数を持った分子振動が電気伝導に及ぼす影響を研究して来た。これらの高振動数モードは電極フォノンから独立性が高いと思われる為、単一分子系の計算ではその事を仮定として採用した。しかし分子膜においては分子間相互作用の結果、分子振動は分散を持つに至り音響フォノンを発生する。これらの低エネルギーフォノンモードは電極フォノンと強く連成すると考えられる。半無限電極フォノンと連成した分子フォノンを定式化し、これが電気伝導に及ぼす影響を研究した。この連成フォノンはそれ自身減衰効果を内包するが、他にも電子・ホール励起との結合を通じた緩和過程が存在する。これ等を全て考慮にいれ電子輸送とエネルギー輸送・緩和過程をすべて自己無撞着的に解いた。結果は次年度以降纏め公表する予定である。(2)以前の非弾性電流の計算では印加された電圧降下が全て分子・電極接合界面で起こり分子内部でのポテンシャル降下が起こらないという簡単な仮定が採用されていた。分子膜系の問題においてはこの様な仮定が良く成立するかどうか不確かである。分子内部でのポテンシャル降下を許す様な計算を行った時、その事が弾性・非弾性電流にどの様な影響を及ぼすかを研究した。結果は次年度以降纏め公表する予定である。
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