研究概要 |
単一分子系・分子膜を含む様々なナノリンク分子系の電気伝導において,(1)電子・分子振動結合に由来する電子散乱,(2)分子振動・電子正孔励結合に由来する分子振動緩和,(3)分子振動と電極フォノン間のエネルギー移動,(4)電極間分子のシャトリング運動や(5)不純物散乱過程等が果たす役割を理論的に解明する為の研究を行った。これ等は現実のナノリンク分子架橋系で起こっていると思われる物理過程であり,その理論的な理解を微視的なレベルで確実に得る事は実験事実のより良い理解を得る為に重要であるに留まらず,分子エレクトロニクスなどの応用技術研究の進むべき方法を策定する際に非常に重要になる。単一分子系においてはtight-bindingモデルの範囲で(1)〜(4)の全てを取り入れた計算を行い,分子振動の非平衡状態が負性抵抗などの電気伝導における強い非線形効果をもたらす可能性がある事を見出し,その物質パラメータ条件を発見した。(1)と有限電圧下での電荷非平衡分布が共存した時に非弾性散乱チャネルと弾性散乱チャネルの抑制的な競合が減少する事を,第一原理量子化学計算を行う事により見出した。高電圧下のナノリンク分子の振電的な電気伝導の挙動が理論的に予測出来た。(Phys.Rev.B77,075110(2008))(1)に伴う非弾性スペクトルに対して電極の巨視的な形状が及ぼす影響を理論的に調べた。走査型トンネル分光実験では探針は一般的な電極と比べて先端が鋭利でありその形状がどの様にスペクトルに影響を及ぼすかを知る事は有意義である。現在用いられている探針より更に鋭利な針を用いると,探針内部に出来る束縛状態の為に非弾性スペクトルに分子振動に由来する応答に加えて付加的な形状が上乗せされる事を見出した。(Phys.Rev,B77,115428(2008))本特定領域での研究テーマの主眼であった分子膜系と単一分子系の伝導特性の違いに関する理論研究に関しては,これらの研究を元に現在も研究を継続している。
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