研究概要 |
Sr_2RuO_4はNMRおよびμSR測定から,スピン三重項超伝導が実現していること,ゼロ磁場ではその秩序変数(dベクトル)が時間反転対称性の破れた2成分のd(k)=d_0(sinak_x±i sinak_y)zで表されることが確実視されている。昨年度我々はSr_2RuO_4単結晶の極低温静磁化測定および磁気トルク測定を行い,磁場をRuO_2面にほぼ平行に磁場を印加した場合に低温において上部臨界磁場B_<c2>(T)が抑制される原因について調べた。また,[001]方向に磁場を印加した場合,ゼロ磁場近傍で多段の小さなフラックスジャンプが起こること,さらにゼロ磁場近傍においてヒステリシス磁化が緩やかなピークをとる現象(Second Magnetization Peak(SMP)効果)が現れることを発見し,このフラックスジャンプやSMPが超伝導内部自由度と関連がある可能性を指摘した。 本年度は,この多段フラックスジャンプやSMPが現れる弱磁場領域(〜100 Oe以下)の精密磁化測定を行ない,以下のような結果を得た。(i)SMPは磁場勾配を大きくすると顕著になる。(ii)SMPが現れる磁場より弱磁場領域では,ヒステリシスの大きさが磁場勾配に依存し,磁場勾配を大きくするにしたがって,ヒステリシスが小さくなることがわかった。この(ii)のような現象は,他の第II種超伝導体ではこれまで観測されていない現象であり,Sr_2RuO_4において初めて発見されたものである。この現象は,秩序変数(dベクトル)がSMPの現れる磁場近傍でc軸方向からc面内にフリップするためにおきていると考えると,定性的に説明できる。つまり,磁場勾配によってdべクトルのフリップが助長された結果,磁束ピニングが弱まり,ヒステリシスが小さくなるのではないかと考えられる。我々の実験結果はNMRナイトシフトの結果から得られるモデルと良く合致する。
|