研究概要 |
現代物理学における物質相の理解は局所的秩序変数を用いた自発的対称性の破れをその概念的基礎とする。局所磁化により強磁性相が、局所的な電荷密度により電荷秩序相が特徴づけられるわけである。しかし、強相関電子系等、近年興味を集めている低次元量子系においてはその強い量子ゆらぎならびに低次元性により、通常の秩序形成が強く妨げられ、対称性の破れを伴わず、それでいて極めて特徴的な物理相が存在し得ることとなる。整数、分数量子ホール相をその典型例である。通常の相の理論が局所場の理論にその基礎をおくのに対しトポロジカルな場の理論をその基礎としてこれらの系を特徴づけようとする新しい概念がトポロジカル秩序、量子秩序と呼ばれるものである。この新概念により特徴づけられる系としては、フラストレートしたスピン系におけるスピン液体相、整数スピン鎖におけるHaldane相、近藤絶縁体相等があり、総括的に量子液体相と呼ばれる。また近年実験的に合成され多くの興味を集めている炭素2次元単層構造としてのグラフェンもこのトポロジカル秩序から非自明な構造をもつ。これらの量子液体相の物理的理解を目指すとき、古典的な概念では不十分であることはほぼ自明である。 本研究ではこれら量子液体相に対して、量子系特有の幾何学的位相を用いトポロジカルな秩序変数を定義することで、その相分類、相の理解に対して極めて有効な成果をおさめることができた。具体的には時間反転対称性等の反ユニタリ対称性をその系の対称性とする系での量子化ベリー位相を用い量子的秩序変数を定義し種々の1,2次元のスピン液体相、電子液体相に適用し量子液体相を明確に区別することに成功した。さらには磁場下のグラフェンに対してチャーン数と呼ばれる位相不変量を用い凝縮系におけるDirac電子によるトポロジカル秩序相を具体的に議論した。さらにはエンタングルメントエントロピー(EE)なる新しい物理量を用い、基底状態に関する純粋状態の密度行列を空間的に縮約することで基底状態の波動関数の空間的エンタングルメントを定量化した。これはトポロジカル秩序相に特徴的なエッジ状態とEEとの間の関係を一般的なValence Bond Solid状態等、スピン液体の系に関して具体的に明確にすることに成功したものである。
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