研究概要 |
本研究課題では、モット転移の系の典型例であるNiS_2パイライトに着目し、圧力誘起モット転移の臨界指数およびユニバーサリティクラスの決定を目指す。これを通じてモット転移系の臨界挙動の一般化に貢献すると同時に、パイライト型硫化物の特性を生かして、臨界挙動に対する乱れの効果、幾何学的フラストレーションの効果の検証を行う。同時に、上記実験の延長線上で、圧力相図上に隣接する反強磁性金属-常磁性金属転移に伴う磁気的量子臨界点の超伝導探索、非フェルミ液体状態の探索を行う。 第二年度は、これまでに育成したクリーンなNiS_2および化学置換によって乱れを導入したNiS_<1.7>Se_<0.3>の単結晶において、改良型ブリッジマン型高圧セルと希釈冷凍機による測定を進め、電気抵抗率から温度-圧力相図をまとめた。約7GPaの静水圧によりNiS_2の磁気的量子臨界点に達し、0.5μΩcmもの低い残留抵抗率を示す極めてクリーンな金属相が実現できた。クリーンな系が示した臨界現象は、乱れた系である固溶体NiS_<2-x>Se_xが示す臨界現象と全く異なり、乱れが量子臨界現象に極めて深刻な効果を与えることが明らかになった。乱れた系は、電気抵抗率のT^<3/2>のべきで特徴づけられる非フェルミ液体挙動が量子臨界点近傍のみに現れ、臨界点から離れるに従ってV字状にフェルミ液体が復活する、教科書的な挙動を示した。一方で、クリーンな系では、実験上限である9GPaまで、常磁性状態であるにも関わらず、T^<3/2>の非フェルミ液体がしつこく存続した。 量子臨界点のみでなく、モット臨界点も乱れが重要な役割を果たすことが明らかになった。クリーンな系におけるモット臨界点は(P_c,T_c)=(3.5GPa,220K)であった。臨界指数は平均場理論による予想と一致した。乱れを導入すると臨界温度は低温へシフトし、クロスオーバー領域が支配的となった。
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