全光学的手法により生成した原子気体のボース凝縮体やフェルミ縮退状態などの多様な量子縮退原子集団を対象とし、強相関量子多体系の量子シミュレーターを実現しようというのが本研究の目的である。このような量子縮退した原子集団は、巨視的数の原子系であるにもかかわらず、高い操作性や長いデコヒーレンス時間が期待される。これらの原子集団を光格子に導入した系は、ハバードモデルで記述される。様々なパラメーターを変化させてこの系の振舞いを研究することは、ハバードモデルで記述される強相関量子多体系に対するシミュレーターとみなすことができる。 今年度は、多様なYb原子の量子縮退気体を生成することに成功した。まず、フェルミ同位体171Ybに対しては、ボソン同位体174Ybとの光トラップ中で協同冷却により171Ybをフェルミ温度の0.7倍以下までの冷却に成功した。173Ybについては、6成分のスピン状態問の衝突を利用した蒸発冷却を行い、フェルミ温度の0.4倍以下までの冷却に成功し、さらにBECとフェルミ縮退の混合の生成にも成功した。また、170Yb同位体については104程度の原子数のBECを生成することに成功し、また共同冷却により176Yb BECと174Yb BECの混合系を生成することに成功した。 また、174Yb原子BECを1次元光格子に導入し、第一ブリリュアンゾーンの運動量分布の観測に成功し、また、明瞭な干渉パターンを観測することに成功し、量子縮退Yb原子集団が光格子に導入できていることを確認できた。さらに、散乱長制御のための光フェッシュバッハ共鳴効果も観測することに成功した。散乱長がもともと小さい176Yb同位体および負で大きい172Yb同位体を用いて、光会合の効率をモニターしながら散乱長を変化させるためのコントロール光を入射することにより、光フェッシュバッハ共鳴特有のスペクトルの観測に成功した。
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