平成18年度の本研究課題では、エアロジェル中の液体ヘリウム3の超流動転移温度直下に現れる等スピン超流動対状態A-like相の正体を理論的に明確にすることを目的とした研究を行った。1)A-like相で観測されるNMRシグナルの特徴がバルク液体のA相における特徴と顕著に違うことや、2)AB転移線の圧力依存性がバルク液体と逆の傾向を示すこと、などから、A-like相の対状態が従来のAnderson-Brinkman-Morel(ABM)状態ではないという提案があり、この問題を理解することが現在超流動ヘリウム3ではホットな題材である。上記のA-like相がABM状態でないという示唆は熱力学量の考察と調査から出てくる結論とは正反対であるため、理論的解明が必要であった。今回、上記の1)に関してはA-like相がABM状態であった場合、Leggett方程式においてクーパー対の軌道角運動量方向について乱れに関し平均をとることにより、ABM状態であってもNMR実験は理解できることを示した。また、2)の現象は、微視的にABM状態の安定性の原因となる(粒子相関による)強結合効果がエアロジェルがもたらす乱れの効果により著しく弱まることを意味しているため、今回強結合効果への乱れの効果を体系的に調べた。その結果、従来の理論では無視されていたバーテックス補正項が強結合効果の減退の要因であることを突き止め、実験事実との矛盾は解消されたと言える結果を得た。特に、エアロジェルによる準粒子散乱にわずかな異方性を考慮すれば、この強結合効果の減退に基づいたモデルで2)の特徴は十分理解できることがわかった。これにより、A-like相をABM対状態とする解釈に問題が無いことが立証されたと考えている。
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