量子スピン系の強磁場中の振る舞いにおいて、近年、磁化プラトー、磁場誘起3次元秩序、フラストレーションによる磁化カスプなどが発見され、理論、実験の両面から注目を集めている。これらは、量子多体問題の雛形であり、基礎理論、および応用の面で大変重要な問題である。本年度の研究では、1次元量子スピン系の強磁場中量子状態の研究に適した密度行列くりこみ群法を中心として、種々の擬1次元量子スピン系のエキゾチックな基底状態の探索を行った。(1)三角形量子スピンチューブは、ユニットを作る三角形がつながったチューブ構造を持つが、三角形をつなぐ相互作用の比が、1.2程度で並進対称性の自発的に破れた状態とフラストレーションのあまり効かないギャップレスの状態の間で量子相転移がおこることを示した。また、これらの相ではチューブの端に現れる有効スピンの状態が重要であることを示した。(2)擬1次元XXZスピン鎖BaCo_2V_2O_8の強磁場中ESRスペクトルに対応する理論計算を行い、XXZの異方性が0.5程度であることを示した。また、この物質において、対応する1次元朝永-ラッティンジャー液体の臨界指数を計算し、新奇磁場誘起非整合秩序の可能性があることを指摘した。(3)最近、Pr_2Ba_4Cu_7O_<15-δ>という1次元超伝導体が発見された。この系はフラストレーション電子系であるジグザグハバード模型で記述されることが期待されているが、実験に対応する電子密度での信頼できる電子状態の計算がなかった。そこで、DMRG法を用いて、詳細な基底状態の電子数依存性についての相図を決定した。これにより、Pr_2Ba_4Cu_7O_<15-δ>の超伝導が、相互作用の非常に拮抗したフラストレーションの強い領域で起こっていることがわかった。このほか、Wilosnの近藤不純物問題に対する実空間くりこみ群を1次元量子多体系に再定式化し、共形場理論による臨界指数を実空間くりこみ群の固定点として求めることに成功した。
|