研究概要 |
本年度は立方晶近藤半導体YbB_<12>の約200Kという大きさのエネルギーギャップが等温磁場印加過程においてどのような応答を示すが、準定常磁場を発生できる新しく開発された物性研のロングパルスマグネット(パルス幅30msec,最大磁場60T)を用いて磁化測定(70Tマグネットも使用)、磁気抵抗測定実験を行った。50T近傍での1次転移後強磁場誘起相の状態を明らかにすることを目指した。 (1)結晶育成:浮遊帯域溶融法にて近藤半導体YbB_<12>の単結晶を育成。磁気異方性を調べるため、[100],[110],[111]の3方向の試料を準備した。 (2)磁気抵抗:最大磁場60T。電流方向と磁場の方向が一致する縦磁気抵抗測定で、[100],[110],[111]の3方向について行った。温度は1.3K,4.2K,7K,10K,20K,40K,80K。転移磁場は以前報告した値と変わらず、[100]で47T,[110],[111]で54Tであった。転移後はいずれも電気抵抗はほぼ磁場依存性を示さず、一定に近い振る舞いであった。 (3)磁化測定:1.3Kと4.2Kで等温磁化過程を測定した。転移磁場は以前報告した値と変わらず、[100]で47T,[110],[111]で54Tであった。理論で予想していた転移前の磁気異方性は殆ど示さず、磁気異方性はないといえる。金属非金属転移後の磁化の伸び方は、比較的スムーズで、強磁性や反強磁性というよりは、常磁性のKondo格子状態のものであった。小さなエネルギーギャップがつぶれたときに、常磁性のフェルミ液体的状態に移行したと考えられる。さらにショートパルスも併用して、70Tまでの磁化をかけたときにどこまで磁化が伸びるかも調べ、少なくとも[111]では最大磁化は最大1ボーア磁子を越えた。 (4)さらに希土類のホウ化物の磁場応答の参照のため、重希土類の4ホウ化物(希土類R=Tb,Tm,Er)の磁気相図を明らかにした。R=Tbの場合、Yで置換した合金系で磁化がどのように磁場に対し変化するか、磁化プラトーがどうなるかをあわせて調べた。 このようなデータの結果を踏まえ、最終年度となる来年度はより強い磁場とLu置換によるエネルギーギャップの変化に対する等温磁場応答を明らかにするため、さらに実験データを積み重ね、強磁場誘起金属非金属転移後のYbB_<12>の基底状態について、さらに検討を進めたい。
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