研究概要 |
優れた化学安定性ときわめて低い蒸気圧を示すイオン液体が潤滑剤として使用できるならば,これまでに実用が困難だった極環境での機械類の操作が実現できる.このような観点から,平成18年度は境界潤滑下でイオン液体の化学構造とトライボロジー特性の関係について基礎的知見を得ることとした.実験室的手法として広く普及している,振子式摩擦試験機および球-平板式摩擦試験機で摩擦係数と摩耗量を比較した.さらに摩擦面を分析するとでその化学組成を求めた.一般にイオン液体は,同じ粘度の既存油と比較して低い摩擦係数を与える.摩擦面の表面分析から,イオン液体のアニオン成分(BF4,PF6,(CF3SO2)2N)がトライボ化学反応(メカノケミカル反応)を受けて金属フッ化物となり,これが摩擦低減に寄与しているととがわかった.一方でカチオン成分で(四球アンモニウムおよびアルキルイミダゾリウム)の分解物はほとんど検出されなかった.アニオン成分の反応で生じる金属フッ化物は摩擦低減にある程度寄与するものの,高荷重や高温どいった過酷な条件では腐食摩耗を引き起こす.特にBF4とPF6はこの傾向が強く見られ,(CF3SO2)は過酷な条件下でも比較的安定したトライポロジー特性を示した. 直鎖カルボン酸を添加するとトライボロジー特性が向上することは鉱油ではよく知られた現象である.これをイオン液体に適応した.溶解性でやや難点があるものの,炭素数8から12程度の直鎖カルボン酸は,イオン液体のトライボロジー特性を向上した.ここで,カルボン酸はイオン液体のアニオン部分の過剰なトライボ化学反応を抑制し,結果的にトライボロジー特性を向上させることを,摩擦面の表面分析から明らかにした.直鎖カルボン酸によるトライボロジー特性向上の機構が鉱油に対するそれと異なる点が,イオン液体のトライボロジー特性を理解するためのキーポイントであることを提案した.
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