研究概要 |
イオン液体の低融点の起源を明らかにするには,イオン液体の構造やダイナミックス,固相での結晶構造などとともに,熱力学的観点からの理解が重要である.そこで本研究では,極低温から液相に至る広い温度範囲での熱容量を測定し,イオン性液体における融解現象を熱力学的観点から系統的に解明することを目的とした.また結晶およびイオン液体状態での分子運動状態を調べるために分子動力学計算を行い,微視的状態をも明らかにすることを目指した.特に,1-R-3-methylimidazolium(R=アルキル基)の塩について,アルキル基およびハロゲンを変化させたときの格子振動の変化,エントロピー,エンタルピー差,融解挙動を調べており,本年度はR=ブチル基(bmim)のbis(trifluoromethylsulfonyl)imide(Tf_2N)塩である[bmim][Tf_2N]について精密熱容量測定を行い,R=ヘキシル基の[hmim][Tf_2N]との比較を行った.[bmim][Tf_2N]の液相は210K付近までは比較的安定に過冷却し,また,すみやかに冷却した場合は容易にガラス化した.ガラス転移温度は182Kであり,結晶の融解は270.4Kに観測された.融点直下では複雑な融解前駆現象が観測され,過冷却液体状態から結晶化させた場合と,その結晶を昇温して試料の一部分を融解させた後に冷却して結晶化させた場合には熱容量に差があることを見出した.融解エンタルピーは24kJ mol^<-1>であり,融解エントロピーは88JK^<-1>mol^<-1>であった.一方,結晶において60Kおよび75K付近に新たに熱異常が観測された.これらの熱異常ではガラス転移に特徴的な緩和現象が観測されたことから,結晶相において何らかの不規則性が存在し,それが温度の低下により凍結してガラス状態となることが考えられる.
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