研究概要 |
ホスホリパーゼD (PLD)は、リン脂質を基質として加水分解反応、リン酸基転移反応の二つの反応を触媒する酵素である。PLDを用いて、リン酸基転移反応を利用することで希少なリン脂質や、新規のリン脂質を合成することが可能である。あらゆる生物種に存在するPLDには、HxKxxxxD (HKDモチーフ)と呼ばれる、共通したアミノ酸配列が2回繰り返され、各HKDモチーフの下流にグリシン・グリシン(GG)、グリシン・セリン(GS)モチーフ配列が保存されている。本研究室ではこれまでにこのGG/GSモチーフへのセリン残基の導入により、変異体(G215S, G216S, G216S/S489G)を取得している。本研究では、これらのPLDを用いてPhosphatidyl-choline (PC)からPhosphatidylserine (PS)の合成系にて、基質であるPCを溶解させる溶媒に着目してPLDの反応特性を解析した。また、第三の溶媒とされるイオン液体についてもPCの溶媒としての可能性を検討した。イオン液体は不揮発性であり、水や有機溶媒と相分離するなど、今までの溶媒の特性にはない特徴を有している。高さ10cm、直径1.6cmのねじ口瓶を反応器として用い、二相系、または三相系にて反応させた。反応には、有機溶媒に溶解した3.5mM PCを1ml、水相に2.5ML-Serine 1ml、200mM Phosphate buffer (pH5.8)300・l、PLD100・lを用いた。三相系では、上記組成にイオン液体を0.5g加えた。イオン液体は、カチオンにイミダゾリウム系の化合物、アンモニウム塩などで、アニオンにBF_4^-、PF_6^-、TFSI^-などから構成される。反応温度30℃で規定時間攪拌させ、有機相を分離後、試料を採取し、HPLC(東ソーTSK-GEL Silca-60、カラム温度37℃、流速1.1ml/min、吸光度210nm)にて定量分析を行った。また、有機溶媒やイオン液体と酵素を接触させて酵素の安定化を調べた。実験方法は、PLD500μlにそれぞれ等容量加え、数日間攪拌させた後、酵素活性を測定した。 二相系において、有機溶媒にDiethyl ether、n-Hexane、n-Hexane:Aceton (8:2v/v)を用いた結果、Diethyl ether系にて高いPSの生成が確認出来た。また、変異を導入していない方が高い転換率が得られた。一方、n-HexaneではほとんどPSは合成されなかった。そこで、n-Hexaneにイオン液体を添加し三相系にて反応を行った。その結果、アニオンにTFSI^-をもつイオン液体を添加した時に、若干PSが増加した。このことから、酵素活性を阻害するn-Hexaneからイオン液体が酵素の構造(もしくは活性)を保護したことが考えられる。実際に、接触させた場合に酵素活性の向上、または不活性化の緩和がみられた。
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