イオン液体は新しい溶液反応場として注目されており、反応速度や選択性が有機溶媒及び水中と異なるとの報告が数多くなされているが、「なぜ異なるのか」に対し、イオンによる溶媒和という観点から反応物理化学的研究を行った例はなかった。本課題では、中性分子による溶媒和ではなく、強いクーロン場を与えるイオンにより溶媒和された水・有機分子・イオンの並進・回転ダイナミクス及び反応性を明らかにし、反応のダイナミクスの理解を深めた。 上記の観点から、今年度はカチオンを1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムに固定し、イオンに溶媒和された水分子の回転ダイナミクス及び反応性について、アニオンの効果を明らかにした。極性溶質である水分子の回転運動はアニオンサイズがより小さいほどより強く束縛されるのに対し、無極性溶質であるベンゼン分子の場合はアニオンサイズによらず、マクロな粘度で回転運動を説明できることを明らかにした。 また、重水分子とイミダゾリウムカチオン間での水素交換反応速度の水濃度依存性について研究を行った。最も小さなアニオンである塩化物イオンとの強い水素結合により、水の低濃度領域、約10M(=mol dm^<-3>)以下では、ほとんど反応が進行しないことを初めて明らかにした。これより高い濃度では、水濃度増加と共に直線的に反応速度は増加した。これにより、塩化物イオン1つにつき水分子約1.6個まで束縛していることを示した。また、回転運動性の水濃度依存性についても、約10M以下では強く束縛され大きな濃度依存性があるのに対し、より高い濃度では自由な水分子の数が多くなるため回転運動性は大きくなり、濃度依存性は小さくなることが分かった。溶質水分子の回転運動性と反応性がよく相関することを初めて報告した。これらの結果は、専門誌Journal of Physical Chemistry AにおけるLetter論文として高く評価されている。
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