分子間振動などの低振動数モードがテラヘルツ領域に分布しているため、テラヘルツ時間領域分光法(THz-TDS)によって分子間相互作用とそのダイナミクスを調べることができる。 イミダゾリウム系イオン液体のTHz-TDS測定を行い、テラヘルツ領域の誘電率スペクトルがアニオン種に強く依存することが分かった。密度汎関数法を用いた振動計算との比較から、カチオンーアニオンの2量体のイオン間振動を考慮することによって、実測スペクトルを定性的に説明できることがわかった。このことから、テラヘルツ領域の誘電率スペクトルが、主に、イミダゾリウムカチオンとアニオンのイオン間振動に起因していることを示した。 低振動型ヘリウム閉サイクル冷凍機をテラヘルツ時間領域分光装置に組み込み、5〜300Kのイオン液体の固体状態のテラヘルツ誘電スペクトルの温度依存性を調べた。1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンサルフォネートは過冷却状態から固体状態に変化すると、低周波数領域で支配的であった緩和的なスペクトル成分が急激に減少した。さらに、液体状態のときと比較して、スペクトル構造が顕著になり、複数のブロードなテラヘルツバンドが現れた。また、120K以下ではテラヘルツバンドの変化が急激になり、それぞれのテラヘルツバンドが先鋭化し、さらに複数のバンドに分裂した。固体化しても120Kよりも高い温度ではテラヘルツバンドが十分に先鋭化しないことから、アルキル鎖の涙れ運動は凍結せず、比較的自由に運動しているものと考えられる。120Kよりも低温側では、アルキル鎖の自由度の凍結が、急激なスペクトルの先鋭化とバンドシフトを引き起こし、無秩序-秩序転移的な温度依存性を示したものと考えられる。
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