和紙製造技術は、長繊維である楮などを使用して良質な紙を製造する優れた方法である。短繊維を用いて大量生産する技術として進歩した機械漉き洋紙製造技術が、和紙製造の省力化にどのように導入されたかについて研究した。粘剤を用いた機械漉き和紙は1895年に円網抄紙機を用いて初めて製造された。しかし、楮は長繊維であるために、機械漉きすることは難しく、本格的な楮紙の製造は1955年に高知で開発された懸垂式短網抄紙機が導入されて以降である。本抄紙機はロールスクリーンが絡んでしまった楮繊維束を取り除き、抄紙網部をゆっくりと横揺りすることで良好な紙の地合を実現し、薄くて均一なシートを抄紙できるようにした。本機は廉価でありながら、操業性がよい。戦後画仙紙に移行した西島と因州では、手漉き工程の省力化のために流動式の手漉き装置の開発と導入を行っている。これは、画仙紙の場合、紙が薄く一度の組み込みで紙層を形成することが可能なことと、繊維長の短いものを主として使うためと考えられる。西島ではセーコー式、因州では半自動式そして、紙床(湿紙を伏せるところ)への移行などまで自動化した機械(大野・松木園式、中小企業事業団式)が開発されている。ただし、全自動の機械は装置が複雑になりすぎ、シンプルな装置としての半自動式が実際には使われている。 時代の変化に対応して新しい需要を開拓し、伝統技術を生かす形による技術開発によって、和紙製造は生き残った。そして、これらの優れた技術は日本のみならずアジア各国でも大いに利用されている。 越前では、江戸時代までに確立した高度の技術を応用して、洋式の印刷に耐える光沢紙を開発することで、新しい用途を見いだして、産地の生き残りに成功した。本研究でまとめた和紙製造技術の特長は高付加価値な紙製造にも役立つと期待される。
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