昨年度、第二次大戦後の鉄鋼技術復興に向けた日本鉄鋼協会を中心とした精細な調査にもとづき、日本の基幹産業としての使命を達成するための技術指針が提示されたことを示した。この中で銑鋼一貫生産方式の採用、国際競争力を高性能・高品質の高級鋼材製造を志向する指針が提言されていた。この指針をもとに銑鋼一貫生産方式の一翼を担う薄鋼板量産可能な冷間圧延ミルの設置が進んだ。しかし当時の国産薄鋼板の材質レベルは米国産に比べて著しく劣っていた。このような状況下で、自動車と鉄鋼の二産業の研究者・技術者とを結びつける活動が進んでいく。東京大学の福井伸二は簡易に深絞り性を評価できる試験法を考案し、コニカルカップテスト研究会という同人会的集まりを作った。この研究会には自動車メーカーと鉄鋼会社の技術者が集まり、福井の弟子である理化学研究所吉田清太が中心となってコニカルカップ試験法のJIS標準化を目指した。コニカルカップテスト研究会は「薄鋼板のプレス成形と試験法研究会」さらに「薄鋼板成形技術研究会」へと発展していき、理化学研究所の吉田研究室は自動車用薄鋼板の実用開発の中核的な役割を果たしていく。1970年日本鉄鋼協会鉄鋼基礎共同研究会の中に大学、国立研究所、鉄鋼会社の研究者が参加、「薄鋼板製造技術の基礎としての再結晶現象および集合組織」に焦点を合わせた再結晶部会が設立された。この年鉄鋼協会の主催で、"International Conference on the Science and Technology of Iron and Steel (ICSTIS)"が開催され、戦後日本の鉄鋼科学技術の自立が世界的に認められた。また日本鉄鋼協会では、自動車用鋼板を対象とする低炭素鋼研究会が金属組織学的研究を進めて、今日の自動車技術と鉄鋼技術の重要な基盤を築いていった。
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