本研究は、日本の化学産業における技術革新の規定要因を明らかにすることを目的としている。日本の化学産業は、研究開発の成果が効果的に国際競争力に結びつかないという問題に直面しており、その点で技術的知識からの価値創造という技術経営の今日的課題について考察するに当たって注目すべき産業の一つである。 本年度は、石油化学製品のメーカーが保有する研究所・研究開発部門69.事業所から得られた質問票調査データを用いて、技術革新の成立を規定する要因のうち「技術機会」に関する分析を中心に行った。 技術機会とは、企業における研究開発が新たな技術知識の創出に結びつく機会であり、それは研究開発をとりまく様々な情報源によって提供される。また、技術機会は、企業規模が大きいほど多様な情報源に接触する機会が生じるため、豊富に獲得されるものと考えられている。我々の調査では、過去3年間の研究開発において技術機会が提供された情報源について質問している。この調査データにより技術機会の獲得状況を規模別・情報源別に分析した結果、大学等の科学的な情報源からの技術機会の獲得については、明らかに大規模企業の方が優位であることが観測された。つぎに、大学から技術機会を獲得する方法の一つである共同研究開発の実施状況を分析した結果、実施の主要な阻害要因は研究開発ドメインにおける企業-大学間の不一致であることが明らかになった。
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