Walter J. Freemanの5つの情報ループで構成された知能の理論に基づいて、移動知の生成・消滅の機構に関する理論の構築をFreemanの情報ループを修正した"移動知ループ"の概念によって試みた。身体性を確立するために、再求心性コピーという新しい概念を導入し、それとvon Holstの遠心性コピーとの関係を論じた。ここで、身体性を身体に"現在"の感覚を構成する過程において現れるものと仮定した。この枠組みに基づいて、大脳辺縁系の一部である海馬の数学モデルを構築した。海馬は最新の臨床データによると過去の経験(エピソード)の想起だけではなく未来の事柄を想像することに必須の場所であると考えられているので、まさに"現在"の身体性の構築に必須の場所であると考えられるからである。特に、CA1のモデルとして、2-コンパートメントモデルを採用し、そのネットワークにパターン時系列を入力したときの応答を調べた。結果は、CA1錐体細胞層にカントル集合によって表現された神経回路の活動状態が得られた。このカントル集合は事象の時系列の長さに応じて階層的に時系列情報をコードすることができる。さらに、この間とる集合の生成気候を詳しく調べた。その結果、カントル集合を生成する神経回路内部にアフィン変換が創発され、そのルールを内部的に使ってコーディングが行なわれていることがわかった。さらに、このコーディングはCA1錐体細胞のスパイク時系列にデコードされることもわかった。これは、海馬においてIFS機構が正しく働く可能性を強く示唆しており、この機構によって、身体を通じた環境からの身体-環境相互作用情報がコードされる可能性を示唆している。
|