研究概要 |
本研究では,昨年度同様,社会性昆虫であるオオシロアリHodotermopsis sjostedtiを材料にして,ワーカーとソルジャーの分化に伴う脳機能の分化の解析を行う.18年度は行動観察により,カーストによる行動走性の相違を検証し,分子基盤や神経生理の解析を後に行う際の機能アッセイ系の構築を試みた.また,この2つのカースト間において,脳の解剖学的相違,組織切片作成による詳細な細胞学的解析により食道下神経節に存在する大顎筋運動ニューロンが兵隊分化に伴い巨大化することを明らかにした.さらに,行動多型を維持する分子基盤の解明を具体的に推し進めるため,2者間の脳における遺伝子発現の相違をディファレンシャルディスプレイ法などにより検出することを始めた.今後は,発現に差のある遺伝子候補に関しては,in situハイブリダイゼーションにより特異的遺伝子発現の生じる脳内の部位を特定する.また,分担者の尾崎は,クロオオアリCamponotus japonicusを用いて,巣仲間認識に関わる体表炭化水素組成の分析およびこの組成を認識する感覚毛における生理学的解析を進めた.その結果,脳内の触角葉の糸球体において,感覚毛からの情報は集積されることが明らかとなった.また,分担者の竹内はミツバチApis merifellaのキノコ体特異的に発現する遺伝子の解析を精力的に進めた.その結果キノコ体ではエクダイソンシグナルに関わる遺伝子の発現が分業などにより特異的に変化することが突き止められた.次年度以降は,これらの知見をもとに昆虫の高度な社会性を構築する脳内の分子基盤の解明を目指す.
|