移動知を力学系とした場合、その力学系と外界(環境)との関係をどのように記述するかは、移動知を考える上で重要な問題である。外界との相互作用モデルを提案し、力学系的な記述・解析を行い、外界とターゲットシステムとの相互作用の特徴が階層性を持つフラクタルとして定量化することができることを示した。さらに、切換ダイナミクスの観点から、線形力学系および統計的縮小性を仮定できる非線形力学系に対するマルチフラクタル解析を行い、定量的な結果を得た。次に、要素が非線形微分方程式で表現される要素集団を移動知のモデルとして、力学系の観点から解析を進め、多次元状態空間の軌道が構成する不変多様体の幾何学的特徴を解析した。外部環境と移動知との相互作用は、非自励力学系として記述することができ、あるポアンカレ断面を設定することで、連続力学系から離散力学系に抽象化される。そして、相互作用によってポアンカレ断面に形成される不変集合が階層的構造を持つことを示した。 この結果をもとに、移動知に発現する"知"が、階層的なフラクタルで特徴つけられるという仮説を立てた。この仮説のもとに、位相振動子を要素として、複数の振動子が強結合でカップリングした群ロボットに対して、2つの外部入力が切り替わる環境で発現する運動について、シミュレーションを行い、理論から予想される結果との定性的一致を見た。 一連の研究で得られた結果は、移動知と環境との相互作用を扱うための基本的な枠組みを与えており、階層性は論理的な記述を可能とすることから、生物の"インテリジェンス"を創出する基礎となっている可能性を示唆している。特に運動はインテリジェンスが発現する最もプリミティブな生物特有な機能であり、運動が力学系の拘束条件として作用して、形にも特徴的な階層構造を創出している可能性がある。
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