本研究では、脳が環境に適用していくメカニズムに絡んで、発火タイミングが重要であるとの観点で研究を進めてきた。脳がどのように働くのかを理解するために、多くの実験や理論的研究が行われている。その目的のための最も野心的で重要な神経科学の試みのひとつが、直接計測した神経活動から、例えば行動などに翻訳可能な、デコードの手法を発見しようとするものである。多様な神経活動パターンのうち、特に認知や行動に関連した同期的活動が多くの部位で観測されている。本研究では、最初に、発火タイミングに依存したシナプス可塑性(STDP)により形成された神経ネットワークが、外部刺激のパターンを記憶する能力があるだけでなく、外部から一様な同期発火を受けることで、記憶した発火パターン間を学習した順番に従い遷移する現象が見られることを発見した。この結果から、神経ネットワークのダイナミクスの特性を変化させることで、情報の流れをコントロールすることが、同期発火活動の一つの可能な役割ではないかと推測できる。この結果は、同期スパイクは生物において、外界の刺激と一連の行動を関係づけるシグナルの役割を果たしている可能性を示唆している。次に、条件付弁別課題をこなすように訓練されているラットの海馬CA1から記録したマルチニューロン活動の解析を行った結果を報告する。解析では、2種類の統計的手法(カーネルk-means clustring、カーネル主成分分析)を用いた。その結果、ラットの行動は、マルチニューロン活動のある一定の長さのパターンから予想できる可能性があることが示唆された。具体的には、条件付き弁別課題を遂行中のラットの海馬CA1から計測したマルチニューロン活動のデータをカーネル法を用いて解析した結果を示した。一つの結果として、ラットの行動はマルチニューロン活動の一定長の特定パターンにより予測可能であることが示唆された。しかし、より信頼できる結論を得るためにはデータがまだ不十分であり、カーネルパラメータの調整などの課題もある。今後、更に研究を進め、これらの課題を解決していく予定である。
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