研究課題
本年は、biological motionの一つと考えられる視線による注意転導課題を用いて、他者視線の理解の神経基盤とそのメカニズムを探った。視線認知に重要な脳部位は、まず上側頭溝領域(superior temporal sulcus region, STS)、そして扁桃体(amygdala)である。我々は人の視線認知の障害を、選択的なSTS限局損傷例、限局性扁桃体例、および統合失調症において調査した。用いた神経心理学的検査は、視線1矢印方向による注意転導実験である。右上側頭葉回限局損傷例では、視線方向による判断障害が出現すると同時に、視線の向きが空間性注意に与える影響が見られなかった。右上側頭葉回は、注意の共有(shared attention)という社会的認知の起源ともいえる機能に深く関与している。扁桃体は、STSと同様に、生物学的に意味のある刺激を検出する機能を有していると考えられた。すなわち、扁桃体とSTSは、相互に神経連絡を有し、視線などの社会的に有意義な刺激を協調して検出・分析している。この中で、扁桃体は、特に非常に迅速で自動的であるがやや大まかな刺激の検出に、一方、STSは、扁桃体で処理を受けた刺激のより精緻な処理に関与していることが示唆された。最後に、視線認知の認知モデルを構成し、また視線・意図認知の計算論的シミュレーションに関する共同研究を開始している。これらの研究と平行して、行為の意図(主体感、sense of agency)に関する検討を、行為とその帰結の時間的関連ないしはバインディングについて課題を用い、健常例と統合失調症を対象として施行し、この行動実験の結果を説明できる計算論的なシミュレーションを試みている。これらの研究は、人・ロボット間の「感情に優しいインターフェイス」の考案やデザインに寄与する可能性があると思われる。
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