研究概要 |
真正粘菌変形体の形態と行動は環境条件に応じて劇的に変化するが、これを「移動知」による適応行動であるとここでは考えてみる。この研究では,真正粘菌変形体の動的な振る舞いについて、変形体を構成する管状構造のネットワークの形に着目し、ネットワーク幾何と生物の機能関係を調べることを目標とする。簡単のために、変形体の管ネットワークのトポロジーのみに着目し、ネットワークがノードとリンクだけで構成されると仮定して、複雑ネットワーク科学の観点から、様々な環境条件下で管ネットワークの構造を調べた。結果として、トポロジーだけを考えた場合には変形体の管ネットワークはスケール・フリーやスモール・ワールドのような構造は持たず、2次元平面上を広がる「木」と「格子」ネットワークの間に位置し、環境に応じてそのどちらか寄りとなっていることが分かった。予備的な解析から、スケール・フリーやスモール・ワールド的な性質は、ネットワークトポロジーではなくむしろリンクの重みや長さに埋め込まれていることが示唆された。次に、変形体のネットワーク成長パターンについて、成長確率と指向性を取り入れた簡単なルールに基づいたセル・オートマトンモデルを構築し、変形体のネットワークトポロジーの再構築を行った。再構築系と実験データによる結果を組み合わせ、構成的手法と系統的解析手法により、要素集合系の形態による適応行動のアルゴリズム抽出を来年度には目指す予定である。
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