振動しながら環境中をはい回るアメーバ様の単細胞生物、真正粘菌(Physarun polycephalum)変形体は、環境に応じてその形態を動的に変化させる。変形体の部分間は管状構造で結ばれており、その内部には原形質の流れが観察され細胞内物質や栄養分を運んでいるる。変形体の振動している各部分を振動子(あるいはノード)、ノード間を結ぶ管状構造をリンクと定義して、変形体全体をネットワークとして捉えることができる。興味深いことに、この細胞は環境の状況に応じてその形態(管状構造ネットワークの形態)と振動周期が著しく変化する。この環境依存の形態変化は一種の適応行動と見て取ることができる。 本研究では、形態の動的な変化はこの細胞にどのように利益をもたらすのかを探るために、各環境における形態の特徴の解析と振動の時空間パターンを解析した。次に、変形体の管状構造ネットワークの形態に着目し、実験結果からネットワーク・トポロジーの特徴抽出を行った。実験結果解析で明らかにされたネットワーク・トポロジーに基づき結合セルモデルによるネットワーク形態依存の同期現象について解析し、最後に、ネットワーク形成モデルの提案を行い、非常に簡単な局所ルールだけで複雑なネットワークが生成できることが示した。これらの実験・モデル解析による構成論的手法により生物のネットワーク幾何と生物機能の関係について考察を行った。今後は、これらの実験事実に基づき、要素集合系の環境依存形態変化による適応行動のアルゴリズムの抽出を目指す。
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