本研究は、外部環境からの刺激に応答する人工モデル細胞の構築をめざし、膜蛋白質複合システムを人工ベシクル膜へ再構成する方法を確立することを目的とする。素材として細胞サイズ(10-10μm)の巨大リポソームを選び、その膜へ情報伝達に与る膜受容体等を発現した出芽バキュロウイルス(BV)を融合させ、これら蛋白質機能を再構成することを計画した。本研究では、三重大工・吉村らが開発した、BVの組換え膜蛋白質提示能とpH依存性膜融合誘起蛋白質gp64の活性を利用する新規プロテオリポソーム作製技術を基本技術として用いており、比較的再構成が難しい7回膜貫通蛋白質の取扱にも適していると考えられる。モデルとして、アデニル酸シクラーゼ活性化に関与する三量体G蛋白質共役型受容体(GPCR)とその周辺を再構成することを目標とした。本年度は、巨大リポソームに対する条件確立のため、野生型出芽ウイルスエンベロープと巨大リポソームの融合条件を共焦点顕微鏡観察により詳細に検討した。その結果、エンドソーム内環境に近いpH5付近の酸性条件下、ホスファチジルセリンまたはホスファチジルグリセロールを含むリポソーム膜に対して、BVが融合することが分かった。また、飽和/不飽和脂質リポソームのコレステロール含有量を変え融合活性を調べた結果、リポソーム膜の流動性が高くなるほど、gp64の融合誘起活性が高くなると分かった。一方、融合後、リポソーム膜とエンベロープの混合は脂質脂肪鎖種に影響されることから、膜の相状態と関連していることが示唆され、効率的な膜蛋白質の機能再構成を実現するための有用な情報が得られた。GPCRであるTSHRを発現したBVについて、本条件による巨大プロテオリポソームの調製を試み、抗体染色によってリポソーム膜上への提示を確認した。次年度は、受容体・伝達器・効果器の各機能の再構成を目標とする。
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