細胞内に含まれる成分のうち、70%は水であり、生命活動を担う多くの化学反応は水溶液中で進行している。本研究課題では、タンパク質、DNAをはじめとする生体分子が、周囲をとりまく水分子と相互作用することで、どのようにして生物らしい構造形成や機能発現を生み出しているのかそのメカニズムを明らかにすることを目的としている。研究代表者らは、タンパク質の水和状態に着目し、高圧力により水和状態を変化させることで、構造・機能の変調イメージングを行える高圧力顕微鏡の開発に取り組んできた。H19年度は、バクテリアの運動器官であるべん毛モーターを研究対象に、高圧力による回転運動変調と応答計測を行った。べん毛モーターは、主要部分だけでも200以上のタンパク質から構成される巨大なタンパク質複合体であり、細胞外から流入するプロトンイオンの流れを利用して、トルク発生を行っている。研究代表者らは、べん毛の回転方向を調節するCheYを欠失させた菌体を用いて、高圧力顕微鏡の観測窓にべん毛を吸着させ「テザードセル」の実験系を構築し、回転運動が圧力によりどのように変調されるのか観測した。その結果、1000気圧程度の圧力により、べん毛モーターの回転方向・速度が変調されることが明らかになった。このような高圧力下でみられる運動様式は、べん毛モーターのトルク発生部位の周辺の構造や相互作用様式が変化することで引き起こされていると考えられる。
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