研究概要 |
前年度の研究で得られたフェムト秒レーザによる細胞膜-核膜切開技術を用いて展開された生体膜が生理活性を有するか実証するために、細胞核を切開し基板上に固定した平面状核膜が機能を有しているか、その核膜が持つ核膜孔複合体による核-細胞間輸送を観察することで評価した。 始めに、微小流体回路を構築するにあたって当研究チームの鈴木孝明が有するsingle-MASK傾斜リソグラフィー技術により複雑な流体回路を簡便に構築し、その回路内にある微小な吸引孔を用いて細胞核の把持しフェムト秒レーザを照射し核膜の加工を行った。この微小流体回路は下記の2つの特徴を持つ。(1)吸引孔が流体回路装置の水平面に対し垂直に配置されており、把持された平面状核膜を顕微鏡視野面に対して垂直に配置することで、核膜孔複合体での物質通過をより詳細に観察できる。(2)吸引孔が2つの流路を跨ぐように配置されており、吸引孔に固定した核膜のそれぞれの面(細胞質側と核質側)に個別に試薬を与えることができるため、細胞質から核側への輸送ならびに核から細胞質側への輸送を、厳密に溶液組成をコントロールした条件化で観察することができる。 次に平面状に展開した核膜が核-細胞間輸送活性を有しているか、その輸送通過における分子サイズに依存した篩い機能を有しているか、低分子(蛍光グルコース、分子量500程度)と高分子(蛍光標識抗体、分子量150,000程度)を与えた時に低分子を選択的に通すか蛍光顕微鏡観察により確認した。その結果、平面状に展開した核膜において選択的に低分子の通過が起きることを確認することができた。 以上まとめると、(1)密閉された微小流体回路内でフェムト秒レーザを用いることで核膜を平面状に展開し、(2)その回路の特徴を利用した平面核膜へ表裏への自由な薬剤投下を行い、(3)その核膜が有する核膜孔複合体の生理活性を測定することに成功した。
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