研究課題
近年、国内外の数グループにより、蛋白質へ非天然アミノ酸を導入する技術の開発が進められているが、この技術は蛋白質生合成系の分子基盤を理解し化学的に改変して再構成することによって成り立っている。このような技術を更に発展させることは、種々の応用的意義があるだけでなく、蛋白質合成の分子基盤の理解にも役立ち、人工的に細胞機能を再構築することを可能にする。本課題は、翻訳系を用いた非天然アミノ酸含有蛋白質合成系をtRNAや翻訳因子の改良により更に効率化し、無細胞系及びモデル細胞系で利用することを目的としている。本研究では、非天然アミノ酸含有蛋白質合成系の改良に向け、(1)非天然アミノ酸の効率的導入に向けたEF-Tuの改変、及び、(2)非天然アミノ酸導入のための4塩基コドン用tRNAの開発を行った。(1)無細胞翻訳系において、tRNAに結合させることはできるが、蛋白質合成では導入効率が非常に低いという非天然アミノ酸は多数存在する。特にかさ高い非天然アミノ酸の導入効率が悪いことが多いが、原因の1つはその非天然アミノ酸がEF-Tuに結合できないことである。そこで、大腸菌のEF-TUを元として、EF-TUのアミノアシル側鎖ポケットを構成するアミノ酸のうちE215及びD216位を小さい側鎖のアミノ酸に変えた変異体を作成した。これらの中から、非天然アミノアシルtRNAにより強く結合する変異体を探し、非天然アミノ酸によく結合するEF-Tu変異体を得ることができた。これを用いて、無細胞翻訳系における非天然アミノ酸取り込み促進効果を測定したところ、通常の翻訳系では導入できなかった非天然アミノ酸を導入することに成功した。(2)非天然アミノ酸を結合させるtRNAは、細胞内のARSによって少しでも認識されると、非天然アミノ酸の導入予定部位に別のアミノ酸が誤って入ってしまう。誤ったアミノ酸の結合を避けることができる上、非天然アミノ酸の導入効率が高くなりそうなtRNAを多数設計し、最も良いtRNAを選び出した。
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