天然の筋肉に存在するミオシン繊維の構造を参考にして、ミオシンロッドを持つキネシンキメラ分子とキャッチンを共重合させて長いキネシン繊維を再構成した。この再構成キネシン繊維上ではキネシン頭部の向きが良く揃っているが、キネシン頭部は非常に柔軟であって、微小管をあらゆる方向にまったく同じ速度で運動させることができる。本年度は、この再構成キネシン繊維を用いた揺らぎ解析を行った。その結果、微小管すべり運動の揺らぎの大きさを表す拡散係数は、微小管の長さに依存せず一定であることが分かった。この結果は、無負荷条件における滑り運動において、多数のキネシン分子モーターが独立に働いておらず、シンクロナイズしている可能性を示唆している。 これまでに行われた分子モーターの揺らぎ解析によって分かった性質、すなわち、「無負荷条件では分子モーターはシンクロナイズするが、高負荷条件では分子モーターは独立に働くこと」、を説明する理論を確立するために、これまでに他の研究グループが提案したいくつかの理論モデルの計算機シミュレーションを行った。これらのモデルは、ある特定の条件において多数の分子モーターがシンクロナイズして細胞骨格繊維を滑り運動させる性質を持っている。この計算機シミュレーションの結果、多数の分子モーターがシンクロナイズして働く場合には滑り距離の揺らぎの大きさを示す拡散係数が繊維の長さに依存しないことを確かめた。しかしながら、これら従来のモデルでシンクロナイゼーションがおきる条件は実験とあっていないので、新たなモデルを構築する必要がある。現在、これまでの計算機シミュレーション研究について論文を作成した(平成20年内に出版予定)。また、英国の研究協力者と共に、分子モーターの統計物理学的モデルを作成した。
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