再生医療を目指したシステム細胞工学において、細胞操作により器官を形成することは重要な課題である。昨年度報告書に記載した器官原基法は、再生医療において重要な課題である器官原基を再構築する能力を持つ細胞の探索と、細胞配置による器官形成技術の開発を可能にした。 そこで本研究では、多能性幹細胞としてEmbryonal Carcinoma(EC)細胞を用いて、EC細胞に由来する間葉組織を有した歯の器官発生を誘導することを目指した。EC細胞と歯胚に由来する組織を組み合わせても歯への分化は認められなかった。そこでEC細胞をDMSOで分化誘導すると、神経堤細胞マーカーと発生初期の歯胚間葉細胞マーカーを発現する細胞が得られることが判明した。さらにこの細胞は歯胚上皮組織と組み合わせることで、1/2の頻度で歯への分化が誘導され、正常な歯と同一の組織配置を有する歯の形成が認められた。 また本研究では、器官原基法を用いて器官の数と形態を制御する分子機構を確立することを目指した。胎齢14.5日切歯歯胚の上皮組織と間葉細胞から作製した再構成歯胚に、歯胚より分離した歯のシグナルセンターであるエナメルノット領域や、Shhを高発現する細胞凝集体を再配置することにより、これらが歯の数や歯冠形成に及ぼす影響を解析した。腎皮膜下移植で歯を形成すると、用いたエナメルノット領域の数に応じて歯が形成され、Shhを分泌する細胞凝集体は異所的な歯尖様構造を誘導することが判明した。これらの成果により、歯の数はエナメルノット領域によって制御され、Shhは歯冠形成への関与が明確化された。 以上の研究成果から、器官原基法が器官形成メカニズムの解明に貢献すること示すと共に、再生医療を目指した器官再構築に用いる細胞種の選定、および細胞配置による器官形成方法の創製に大きな役割を果たすことが期待される。
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