研究概要 |
ナノ・マクロあるいはマイクロ・マクロ変換に関する研究が1990年代より活発に行われている.これらの研究では,如何に忠実にマイクロ・ナノ空間をマクロ空間に拡大するか,あるいは,どの程度の倍率で拡大すれば人間にとって最も扱いやすいものとなるか等の問題を扱っていた.これらの議論では,単に物理スケールを拡大するという問題と同時にマイクロ・ナノ世界の力,すなわち対象が発する反力をいかに拡大するかということが問題であった.言い換えれば,このような研究は,マイクロ・ナノの世界を如何に忠実に我々の世界に近づけるかということを目標に研究していたと言える.しかし,人間は工学者が考える以上に曖昧であるがフレキシブルに各事象に対応できることから,操作性向上にはこれらのアプローチが必ずしも正であるとは言えない. そこで,この研究プロジェクトでは,マイクロ・ナノの世界を忠実にマクロの世界に近づける代わりに,人間をある意味で「騙して」,人間に違和感なくマクロ・ナノの世界の作業を実行させる手法を検討することを目的とする.視覚情報の拡大は容易に可能であるが,力覚情報の拡大,とくに視覚情報と関連させた拡大は極めて難しい.そこで,力覚情報を忠実に拡大するかわりに,音,振動,衝撃と言った全く人工的・作為的な情報を視覚情報に連動して人間に与えることにより,恰も力覚情報が正確に得られているように人間に感じさせることを目論んでいる.具体的には,インジェクション操作におけるピペットの細胞貫入時に,何らかの付加情報を与えて操作性が如何に変化するかを試みることを目標とし,デバイスの開発と基礎実験に取り組んだ.
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