研究概要 |
現在のIT社会は,情報選択能力や学習・適応能力など,人間の高度かつ柔軟な知能に大きく頼っていため,これからの情報爆発時代においては深刻なデジタル・デバイドをもたらすと考えられる.これを避けためには,人間の情報処理を自然にサポートするような知的システムが必要である.このようなシステムは,人間のような柔軟な知能をもつと同時に,人間の情報処理のモデルをもっていなければならない.本研究の目的は,こうした「人間と相性の良い」知的情報処理システムの実現に向けて,人間の優れた知能の源だと考えられる分散表現と自律ダイナミクスを利用した情報処理モデルを構築することである.本年度は,その基礎となる以下の成果を得た. 1.軌道アトラクタモデルによるパターンベース推論:モデルの汎化能力を詳しく調べると共に,新しい知識の追加学習能力について研究した.その結果,構築した推論システムの高い類推能力は,分散表現の利点を生かした汎化能力によって生じていること,また従来のニューラルネットに比べて新しい知識を追加するのがずっと容易であることなどが明らかになった. 2.複数の力学系の相互作用を利用した情報処理:基本的な相互作用の方式などについて研究した.その結果,「動的不感化」という手法を開発し,これまで困難であった文脈依存的情報処理が可能な神経力学系の相互作用のモデルを構築することができた. 3.選択的不感化原理の妥当性の検証:情報統合機能に関する海馬ニューロン活動のモデル化の研究を行った.海馬CA3ニューロンが歯状回からの信号によって選択的に不感化されるという仮説に基づいてモデルを構築した結果,環境を段階的に変化させたときのラット海馬の場所ニューロン活動がきれいに再現されることがわかった.
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