研究概要 |
近年,植物の高次機能に細胞内の小胞輸送が重要な役割を果たしていることが明らかとなりつつある.シロイヌナズナ変異体を用いた解析から,茎の重力屈性反応や葉脈形成や塩耐性などに小胞輸送系の遺伝子が関与していることが明らかとなっている.本研究では,液胞タンパク質の輸送変異体を単離し,高次機能における役割を解明することを目的としている. 貯蔵タンパク質の輸送異常を示すmag1変異体は小胞輸送に関与するレトロマー複合体のVPS29であった.レトロマー複合体の別の因子であるVPS35の変異体でも同様に輸送異常が起こることが判明した.さらに詳しく解析するとvps35変異体では,老化葉が早く出現するなどの表現型が見られ,植物体としての表現型も見られた. より簡便に輸送変異体を取得するためにGFPを用いた新たなスクリーニング法を考案し,多数の新規変異体の取得に成功した.タンパク質蓄積型液胞に局在化するGFPは野生型種子中では不安定であり,弱いGFP蛍光を示す.一方,これを輸送変異体に導入すると,誤って細胞外へ分泌され安定化する.これにより,輸送変異体では種子自体で強いGFP蛍光を示し,変異体のスクリーニングが可能となる.貯蔵タンパク質の選別に関与するVSRは正常であるが,輸送異常を示す変異体を多数取得した.これらの変異体の中には根の伸張不全や稔性の低下などの表現型を示すものがある.これらは栄養器官の液胞タンパク質の小胞輸送の異常により,現れた表現型と考えられる.細胞内輸送が植物の高次機能に関わっていることが明らかとなった.
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