レジオネラによる肺炎は汚染された温泉などを原因とするアウトブレイクで問題となっている新興感染症である。レジオネラは貪食作用により宿主細胞に侵入するが、レジオネラを含むファゴソームはリソソームとの融合を回避し、形態的にrERに良く似たオルガネラへと変化する。このファゴソーム改変はレジオネラが持つIV型分泌系により宿主細胞内へ輸送される細菌由来の機能性タンパク質(エフェクター)により引き起こされるが、その分子機構はほとんどわかっていない。本研究ではレジオネラによるファゴソーム改変のメカニズムに迫ることを最終目標とし、当該年度は申請者がすでに同定している機能未知の新規エフェクターに関して以下の研究を行った。1)新規エフェクターとGFPとの融合タンパク質を強制発現させたときの細胞内局在を検討した結果、ERに局在するものを三つ、ER-Golgiをサイクルすると考えられるもの一つを見出した。レジオネラはER-Golgiトラフィックをのっとるものと考えられるため、ER-Golgiをサイクルすると考えられるエフェクタータンパク質の機能解析を行った。2)酵母ツーハイブリッド法により、このエフェクターと相互作用する宿主因子(ターゲット)の探索を行い、ユビキチンおよびClk1キナーゼと相互作用することを見出した。生化学的解析により、このタンパク質はClk1に特異的なE3ユビキチンリガーゼ活性を持つことを明らかにした。3)このエフェクターを欠失させてもレジオネラの宿主細胞内増殖には影響がみられなかった。しかしながらClk1キナーゼ阻害剤はマクロファージ中でのレジオネラ増殖を強く阻害した。これらのことは宿主Clk1キナーゼがレジオネラ増殖にプラスに関与し、レジオネラはおそらく複数のエフェクターを動員して積極的にClk1キナーゼを利用しているものと考えられる。
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