小胞体局在のI型膜貫通タンパク質であるIre1は、様々なストレスに応じて多量体化し、サイトゾル側末端に位置するRNase活性を発揮する。このRNaseの標的は出芽酵母ではHAC1と呼ばれる遺伝子のmRNA産物であり、これはIre1依存的にスプライシングを受けて成熟型となる。成熟型HAC1 mRNAの翻訳により生じるタンパク質は高活性な転写因子であり、小胞体におけるタンパク質の折りたたみや修飾、小胞体からのメンブレントラフィックなど、小胞体の機能に関わる様々なタンパク質の遺伝子発現を転写レベルで誘導する。本研究では、どのようなストレスをIre1が感知して、どのようなメカニズムで活性化するのかを明らかにすることを目指した。まずIre1は、ツニカマイシンというタンパク質への糖鎖付加を阻害する薬剤で細胞を処理することにより活性化する。ツニカマイシンによるIre1活性化の過程としては、糖鎖が付加されないことに起因するタンパク質の高次構造形成不全であると考えられている。実際私は、Ire1には直接的に構造異常タンパク質が相互作用し、それはIre1の活性化につながるという知見を得ている。例えば、ある変異型Ire1は、構造異常タンパク質との物理的相互作用能を失い、それに伴いツニカマイシンに対する応答性が著しく低下していた。しかし、この変異型Ire1は、sec24変異など、メンブレントラフィックに関わる異常に対しては、野生型Ire1に近いレベルで応答した。また逆に、sec24変異に対する応答性は極めて悪いが、ツニカマイシンあるいは構造異常タンパク質(CPY*)遺伝子高発現によっては野生型に近く活性化される変異体も得ることが出来た。よって、メンブレントラフィックに関わる異常は、構造異常タンパク質蓄積とは異なるメカニズムにより、Ire1に認識されると考えている。
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